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雇用契約書は電子化できる?法的根拠と導入手順

雇用契約書と労働条件通知書の電子化 法的根拠と導入手順

採用が決まるたびに雇用契約書を2部印刷し、製本して郵送し、署名済みの1部が返ってくるのを待つ。入社日が近づいても返送がなく、電話で催促する。月に10名、20名と採用する会社では、この作業だけで人事担当者の数日が消えます。「そもそも雇用契約書は電子でよいのか」「上司にどう説明すればよいのか」という疑問に、法律の根拠と実際の手順で答えます。

この記事のポイント

  • 雇用契約書は電子化できる。労働契約は合意だけで成立し、契約書を紙で作ることは法律上の義務ではない
  • 労働条件通知書を電子で交付するには「①労働者本人が希望していること ②出力して書面を作成できる方法であること」の2要件を満たす必要がある(労働基準法施行規則5条4項)
  • 進め方は、対象書類の棚卸し → 電子交付の希望確認フロー → サービス選定 → テンプレート整備 → 案内文の整備の5ステップ。月10名採用なら月額7,700円(税込)から始められる

結論 — 雇用契約書は電子化できる

雇用契約書は電子化できる。労働契約は合意だけで成立し書面の作成は義務ではなく、労働条件の明示も労働者が希望すれば電子メール等で行えるため。

雇用契約書は電子化できます。労働契約は、労働者と会社が合意すれば成立し、書面を作ることは法律上の義務ではありません。法律が会社に義務づけているのは、賃金や労働時間などの労働条件を採用時に明示することで、この明示も、労働者が希望すれば電子メールなどの方法で行えると省令で定められています。つまり「契約書を紙で作る義務」と「労働条件を紙で渡す義務」のどちらも、条件を満たせば電子で代替できます。以下で根拠となる条文を順に確認し、そのうえで導入の手順と費用感を示します。

そもそも雇用契約書に「作成義務」はない

雇用契約書の作成は法律上の義務ではない。労働契約法6条により労働契約は合意だけで成立する。義務があるのは労働基準法15条1項の「労働条件の明示」のほう。

労働契約法6条は、労働契約は「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」と定めています。合意だけで成立するため、契約書の作成は成立の条件ではありません。同法4条2項は、労働契約の内容を「できる限り書面により確認するものとする」としていますが、これは努力を求める規定であり、書面がなければ契約が無効になるという意味ではありません(e-Gov 労働契約法)。

一方で、労働基準法15条1項は、会社が労働契約の締結に際して労働条件を明示することを義務づけています(e-Gov 労働基準法)。明示すべき事項には、契約期間、就業の場所と従事する業務、始業・終業の時刻、賃金の決定や計算・支払いの方法、退職に関する事項などが含まれ、これらは原則として書面の交付によって明示します。

整理すると、会社が守らなければならないのは「契約書を紙で作ること」ではなく「労働条件を明示すること」です。電子化を検討するときは、この明示の要件を満たせるかどうかだけを見ればよいことになります。

労働条件通知書はメール・電子交付できる(労基則5条4項)

労働条件通知書は、①労働者が希望し ②出力して書面を作成できる方法であれば、メール等で電子交付できる(労働基準法施行規則5条4項)。原則は書面の交付。

労働条件の明示のうち、賃金や労働時間など一定の事項は書面の交付が原則です。ただし労働基準法施行規則5条4項は、労働者が希望した場合には、書面以外の方法で明示できると定めています(厚生労働省 法令等データベース)。認められているのは、ファクシミリで送信する方法と、電子メールなど「その受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」で送信する方法で、いずれも労働者が出力して書面を作成できるものに限られます。

要件は「①労働者が希望したこと」「②出力して書面にできる方法であること」の2点です。この2点を満たせば、電子契約サービスで送った労働条件通知書も明示として有効です。逆に、どちらか一方でも欠けていれば、電子で送っただけでは明示義務を果たしたことになりません。

条文が挙げているのはファクシミリと電気通信の2つです。電子メールのほか、受信者を特定して送るSMSやメッセージアプリも文言上は含まれますが、いずれも「出力して書面を作成できる」ことが条件になります。画面での閲覧しかできない方法は避け、PDFなど印刷できる形で送るのが安全です。電子契約サービスは締結済みのPDFをダウンロードできるため、この点は満たしやすい方法といえます。

労働条件通知書の電子交付は、労働者本人の希望と、出力して書面を作成できる方法であることの2要件を満たすと有効になる 労働条件の明示 労基法15条1項 ①本人が希望したか 会社が一方的に決めるのは不可 希望の記録を残す ②出力して書面にできるか メール・電子契約のPDFなど ファクシミリも可 電子交付で有効 労基則5条4項 いずれかを欠くとき 原則どおり書面で交付
図1: 電子交付が有効になる2要件。塗りのある2つの条件をどちらも満たしたときだけ、電子での明示が認められる

「労働者の希望」の取り方

要件のうち実務でつまずきやすいのは①の「希望」です。会社が「今年から電子で交付します」と一方的に決めて全員に送る運用は、この要件を満たしません。入社案内の一部として、本人に希望を確認する手順を入れてください。

確認のタイミングは内定通知から入社案内までの間が一般的です。「電子での交付を希望する/希望しない」を本人が選ぶ形にし、選んだ結果を記録として残します。記録はメールの返信、応募者向けフォームの回答、電子契約サービスでの同意操作など、あとから取り出せるものであれば形式は問いません。

記録に残す要素は次の4点にしておくと、後から見たときに何を確認したのかが分かります。

  • 対象の書類: 労働条件通知書兼雇用契約書、誓約書など、電子で交付する書類の名前
  • 交付の方法: 電子メールか電子契約サービスか。送信先のメールアドレスもあわせて確認する
  • 本人の氏名と確認日: 誰がいつ希望したかが分かる形にする
  • 希望しない場合の扱い: 書面で交付する旨を明記し、あとから紙に切り替えられることも伝える

就業規則や入社案内に「労働条件通知書は電子で交付します」と書くだけでは、本人が希望した記録にはなりません。希望しないと言われた場合は、原則どおり書面で交付してください。

2024年4月からの明示事項の追加に注意

2024年4月から、労働条件の明示事項が追加されています。電子化と同時にテンプレートを見直さないと、電子で送っているのに記載漏れがあるという状態になりかねません。追加された事項は次のとおりです(厚生労働省 有期契約労働者の無期転換ルール ポータルサイト)。

  • すべての労働者: 雇い入れ直後の就業場所・業務の内容に加えて、これらの変更の範囲
  • 有期契約の労働者: 更新上限の有無と、その内容。更新上限を新しく設けたり短くしたりする場合は、その理由を事前に説明する必要がある
  • 無期転換の申込権が発生する更新のタイミング: 無期転換を申し込むことができる旨と、無期転換後の労働条件

いずれも労働基準法施行規則の改正によるもので、明示の方法は従来と同じです。つまり、労働者が希望すれば電子で明示できます。雇用形態ごとにテンプレートを分けている会社は、電子化のタイミングでまとめて作り直すと手戻りが少なくなります。

電子化した契約書の法的効力

電子署名法3条は、本人だけが行える電子署名がされた電磁的記録を、真正に成立したものと推定すると定めています。紙の署名・押印と同じ推定が働きます。

電子で締結した雇用契約書が「本当に本人が合意したものか」を後から示せるかどうかは、電子署名法3条が支えています。条文は次のとおりです。

「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」

(電子署名及び認証業務に関する法律3条。e-Gov 電子署名及び認証業務に関する法律

読み替えると、①本人が電子署名をしていて、②その電子署名が、必要な符号と物件を適正に管理することによって本人だけが行えるものであるとき、その電磁的記録は真正に成立したものと推定されるということです。紙の契約書における署名・押印と同じ位置づけの推定が、電子署名にも与えられています(法務省 電子署名法の概要)。

電子契約サービスの多くは「立会人型」と呼ばれる方式を採っています。立会人型とは、契約の当事者ではなくサービス事業者が、当事者の指示に基づいて署名を付す方式のことです。この方式についても、総務省・法務省・経済産業省が連名で公表したQ&A(令和2年7月17日・同年9月4日)で、一定の要件を満たせば電子署名法上の電子署名に該当しうるとの見解が示されています(経済産業省 電子署名法に関するQ&A)。

実務で確認しておきたいのは、争いになったときに何を証拠として出せるかです。誰が・いつ・どのメールアドレスで合意したのかという署名の記録を、締結後にいつでも取り出せるかどうかをサービス選定の段階で見ておくと安心です。

導入手順5ステップ

電子化は①対象書類の棚卸し ②電子交付の同意フローの設計 ③サービス選定 ④テンプレート整備 ⑤入社者への案内文整備 の順に進める。サービス契約より社内準備が先。

電子化の作業は、サービスを契約する前に社内の準備から始めると手戻りが少なくなります。順序と、各ステップで決めることは次のとおりです。

  1. 対象書類の棚卸し: 採用時に交わしている書類をすべて書き出します。労働条件通知書、雇用契約書、誓約書、身元保証書、内定承諾書などを一覧にし、電子化するもの・当面は紙のままにするものを分けます。入社手続き全体の書類は「入社手続きのペーパーレス化」で整理しています
  2. 電子交付の希望確認フローの設計: 誰が・いつ・どうやって本人の希望を確認し、その記録をどこに残すかを決めます。内定通知のメールに確認欄を入れる会社が多く、記録は採用管理の台帳か電子契約サービスの履歴に残します
  3. サービスの選定: 月間の送信件数と、契約書を送る担当者の人数から候補を絞ります。受信する側(入社予定者)に費用や会員登録が必要かどうかも確認してください。スマートフォンだけで署名まで完結できるかは、アルバイト・パートの採用が多い会社では特に重要です
  4. テンプレートの整備: 雇用形態ごとに労働条件通知書兼雇用契約書のひな形を作り、サービスに登録します。2024年4月からの追加明示事項が入っているかを、この段階で確認します
  5. 入社者への案内文の整備: メールの件名、署名の手順、いつまでに署名してほしいか、問い合わせ先を定型文にします。ここを作っておくと、採用担当が変わっても運用が崩れません
雇用契約書の電子化は、対象書類の棚卸し、希望確認フローの設計、サービス選定、テンプレート整備、案内文の整備の5ステップで進める 社内の準備 サービス導入 ①棚卸し 採用時に交わす 書類を一覧にする 紙のまま残す物も ②希望確認 いつ・どう確認し どこに記録するか 内定通知時が一般的 ③サービス選定 件数・担当者数 受信側の負担 スマホで完結するか ④テンプレート 雇用形態ごとに ひな形を登録 追加明示事項を確認 ⑤案内文 件名・署名手順 期限・問い合わせ先 定型文にしておく ①②を先に決めておくと、サービスを契約したあとの作り直しが起きにくい
図2: 導入5ステップと各ステップで決めること。塗りのある①②は社内で先に決める部分

保存の要件

電子で締結した契約書は、紙に印刷して保管するのではなく、電子データのまま保存する運用が基本です。電子帳簿保存法7条は「所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。」と定めています(e-Gov 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律7条)。紙に出力して保存すれば足りるとされていた宥恕(ゆうじょ)措置は2023年12月末で終了し、2024年1月以降は、要件への対応が困難な相当の理由がある場合の猶予措置を除き、電子データのまま保存する必要があります(国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト)。

雇用契約書や労働条件通知書がこの保存義務の対象に含まれるかは、書類の性質によって判断が分かれます。自社の書類がどちらに当たるかは、税務書類の保存ルールとあわせて経理担当や税理士に確認しておくと安全です。

いずれの場合も、締結した書類を後から検索して取り出せる状態にしておくことは実務上必要です。電子契約サービスの中に保管し続け、担当者が代わっても探せるようにフォルダと命名のルールを決めておくとよいでしょう。

費用感

月10名の採用で雇用契約書を電子で送る場合の費用は月額7,700円(税込・基本料5,500円+220円×10件)。郵送の印刷・製本・切手代と返送待ちの日数がなくなる。

月10名を採用する会社が、労働条件通知書兼雇用契約書を1名1件として電子で送る場合、Digital Sign のライトプランなら月額 5,500円 + 220円 × 10件 = 7,700円(税込)です。初期費用はかかりません。郵送で往復させていた切手代・封筒代・印刷代と、返送を待つ日数がなくなります。Digital Sign で送信された契約書は送信から締結完了まで中央値で約6時間、署名完了率は86.5%(中央値は2026年3月〜8月に送信された契約書 4,916件、署名完了率は2026年3月〜7月に送信された契約書 4,433件を対象とした2026年9月18日時点の自社実測値。テンプレート・ファイル送信・トライアル期間中の締結を除く)で、入社書類が当日中に返ってくる運用が現実的な数字になります。

郵送では印刷から催促まで5工程が必要だが、電子契約では送信と署名の2工程で完結し、返送待ちと催促の工程がなくなる 郵送でやりとりする場合 印刷・製本 郵送 本人が署名 返送待ち 催促 電子契約でやりとりする場合 送信 本人が署名 印刷・製本・郵送・返送待ち・催促の工程がなくなる
図3: 郵送と電子契約の工程の違い。所要日数は運用や相手方の状況で変わるため、ここでは工程の数だけを示している

電子化の効果は、費用よりも「入社日までに書類が揃うかどうか」に表れます。郵送では、印刷・製本・郵送・返送待ち・催促の5工程が必要でしたが、電子契約では送信と署名の2工程で完結します。

この記事のまとめ

  • 雇用契約書の作成は法律上の義務ではなく、義務があるのは労働条件の明示(労働基準法15条1項)
  • 労働条件通知書の電子交付は、本人が希望し、出力して書面にできる方法であれば認められる(労働基準法施行規則5条4項)。希望の記録を残す運用が要
  • 進め方は5ステップ。棚卸しと希望確認フローを先に決めてから、サービス選定とテンプレート整備に進む

本記事のご利用にあたって

本記事は2026年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務の判断を示すものではありません。実際の取扱いは契約の内容や個別の事情によって異なります。個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家、または所轄の税務署・労働基準監督署にご確認ください。

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よくある質問

雇用契約書を電子化するのに従業員の同意は必要ですか?
労働条件通知書を電子で交付するには、労働者本人が電子での交付を希望していることが要件です(労働基準法施行規則5条4項)。内定通知の際に希望を確認し、その記録を残しておく運用が一般的です。希望しない人には従来どおり書面で交付します。
労働条件通知書と雇用契約書は同じものですか?
別のものです。労働条件通知書は会社が労働条件を一方的に「通知」する書類で、法律上の明示義務を果たすためのもの。雇用契約書は双方が「合意」した証として署名する書類です。実務では1枚にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」を使う会社も多くあります。
アルバイト・パートでも電子化できますか?
できます。電子交付の要件(本人が希望していること・出力して書面にできること)は、雇用形態を問わず同じです。なお、パート・アルバイトなど短時間・有期雇用の方には、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口の明示が上乗せで義務づけられています(パートタイム・有期雇用労働法6条)。スマートフォンだけで署名まで完結できる電子契約サービスであれば、パソコンを持たないアルバイトの方でも手続きできます。
電子化した雇用契約書は裁判で証拠になりますか?
電子データも証拠になります。電子署名法3条は、本人による電子署名(本人だけが行えるものに限る)が行われた電子データは真正に成立したものと推定すると定めており、紙の署名・押印と同様の推定が働きます。電子契約サービスの署名記録・タイムスタンプが、いつ誰が合意したかを示す資料になります。
紙で欲しいと言われたらどうすればいいですか?
書面で交付してください。労働条件通知書の電子交付は労働者が希望した場合に限られるため、希望しない人には原則どおり紙で渡す必要があります。電子で締結した契約書を本人が印刷して保管することも問題ありません。

執筆: 株式会社デジタルサイン

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